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ちっちゃな店長さん−7

「どうぞ、お好きなだけ、調べてや」
 脱いだ上着をポイと机に放ると、そのまま次々と、下に着ていたニットやシャツ、ズボンまでも脱いでゆく。
「バ、バカ、下着はいい!」
 あっという間に素っ裸になるギンに、日番谷は焦って下着を投げ返した。
「こういう場合、身体の中まで調べるもんとちゃうの?」
 自分は調べられる側なのに平気でそんなことを言って、素っ裸のまま、堂々と恥ずかしげもなく…どころか、何故かニヤニヤと嬉しそうに見せ付けてくる。
(こ、こいつ、マジモンの変態だ!ストーカーの上、万引き犯の上、露出狂だ!)
 動揺していることを悟られないよう、手早くまずジーンズのポケットを調べ、すぐにギンに放って返す。
「早く穿け!」
 そんなものなど見たくもないのに、目を逸らすとそのチャンスに品物をどこかに隠すといけないので、見ていないわけにもいかない。
「純情やなあ、店長さんは。そない可愛えお目々で見られると、勃ってきてまいそうなんやけど」
「そんなもんは見てねえから、安心しろ」
「ウソや〜。バッチリ視線がココ見とったで〜」
「見てねえよ!早く穿けってば!」
「ボクはこのままでも…」
「穿け、変態!」
 日番谷が目を吊り上げ、本気で怒鳴ると、ギンはようやくしぶしぶという様子でジーンズに脚を通した。
「…なんで下着ナシでいきなりズボン穿いてンだテメエ。ちゃんと上まで上げろよ!」
「せやかてチャック上まで上がらへんようなってもうたし…」
「…!変態め」
 チッと舌打ちして、日番谷は放られた上着の方に手を伸ばした。
 だんだん、妙な緊張感が高まってきている。
 つまりは、阿散井が見たという万引きしたゴムとやらがこの衣類の中にある様子がなく、ギンのモードが変態方向に傾いてきていて、この部屋の空気が…
(…ピ、ピンチだ…!)
 ギンの服から出てきたのは、結局財布と、車と家のキー、それに携帯電話だけだった。
 しかもその財布には、万札が数枚と、いつの間に撮ったのか、日番谷の写真が入っていた。
 それも、何度も何度も見たみたいに、使い込まれた感というか、…明らかに何かを上にこぼしたみたいな跡があったりして、部屋に高まってきている変態的な緊張感に拍車をかけた。
「…なんだ、これ」
 見なかったことにすればよかったのに、思わず責めるように聞いた声が、震えてしまった。
「ボクの好きな子の写真。可愛えやろ〜vvそない可愛え子、この世にふたりとおらへんで?」
「そんなこと聞いてんじゃねえ!テメエ、人の写真、勝手に…!」
 堂々と言うギンにまたカッとして怒鳴るが、
「ボクの持ち物チェックは、それで終わりですか?」
 一瞬にして立場を引っくり返す言葉で、ギンは日番谷を黙らせた。
「ゴムは、みつかった?」
 気に障るニヤニヤ笑いを浮かべて、ギンが勝ち誇ったように言ってくる。
「…ない…ようだな…」
 一体どんな手を使ったのか、阿散井が見間違えたとも思えないのに、本当に何もなかった。
 最後の最後だったというのに。
 もうこの男ともこれでおさらばできるはずだったのに。
 この場をどう切り抜けていいのか困って、冷や汗が流れる。
 それでも証拠はないし、本当に濡れ衣だったのだとしたら…、謝るしかない。
「…悪かったな。服、全部着てくれ」
「わかってくれた?ボク、万引きなんしとらへんゆうこと」
「…ああ」
「せやったら、今度はキミが、誠意見せる番やね?」
「…」
「責任とってくれはる言うたよね?」
「責任は…とる」
 悔しくて眩暈がしそうだったが、そう言うしかなかった。
「簡単なことやない言うたよね、ボク。人を疑ういうことがどういうことなんか、きちんとわかってもらわなあかんと思うねん。ボクんち、この近くなんよ。あの人万引きしたらしい言うて噂たてられてもうたら、無実やのに、その汚名背負って暮らしていかなあかんねん。言うてる意味、わかる?」
「…ああ」
「キミらがあそこにいた全員に間違いでした言うて回ってくれたとしても、一度言われてもうたら、もう二度と消されへんねん。一人の人間の人生、キミらが狂わせてもうたも同然なんよ。それがどういうことか、わかる?名誉ゆうんは、それだけ大切なものなんや。間違いでしたで済むもんやないんよ?取り返しつかへんねんよ?」
「…悪かった」
「何度も言うたよ。悪かったでは、済まされへん」
 鋭く言って、ギンは突然、立ち上がった。
「口で何言うても、ボクの屈辱はキミにはわかれへんやろう。本気で詫びる言うんやったら、キミにもこの屈辱、味わってもらうで」
「なに…?!」
 刃のように鋭い語気に押され、一歩出られて、思わず一歩引いてしまった。
 ギンが一体何を言おうとしているのか…とんでもなく嫌な予感がして、今すぐここから逃げ出したい衝動と戦うだけで、精一杯だった。
 少なくとも、…一緒に映画に行ってほしい、などという可愛らしい要求ではないことだけは、確信できた。
「可愛らしい制服やね?」
 二人の間の緊張感をフッと和らげるように、突然柔らかい声で、ギンが言った。
「正確に言うと、可愛えのは制服姿のキミで、制服そのものではないけども」
「…何が言いたい…?」
「せやけど、下のズボンはいらへんと思うねん」
「…は?」
「その制服一枚やったら、今よりもっとずっと可愛くなると思うねん」
「…まさか、テメエ…」
「せやから、もっとずっと可愛くしてや。ボクもストリップさせられたんや。おあいこやろう?」
「それは、…テメエが勝手に…!」
 予想もつかない恐ろしいことを言われて、日番谷は一瞬、頭が真っ白になった。