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ただ今外出中です−6

 藍染の鏡は壁からはずされて、次の持ち主の元へと渡されていった。
 その隣に市丸の姿はなく、藍染はやれやれとタメ息をついた。
(…せっかく素敵な子をみつけたと思ったのにな)
 市丸が裏切るかもしれないことは、最初から想定していた。
 永遠の別離よりは二人一緒の死を選ぶくらい、恋人同士ならごく自然に有り得る選択だ。
 市丸の一方的な想いなのか、両想いなのかは判断つきかねたが、色々なことを冷静にシビアに計算する市丸に、藍染からの逃亡などという無謀ともいえる決意をさせるのは、日番谷の愛しか有り得ないといえる。逆に言えば、日番谷も市丸を好きだったとしたら、市丸は何をするかわからない。
 だから、もし市丸が藍染の元へやって来ずにふたりで逃げようとしたら、ペナルティとして、朝日を浴びた瞬間、再び永遠の呪縛へ戻るようにしてあった。
 それは、死よりも辛い罰となったはずだった。
 だが、どこをどう間違えたのか、市丸の執念か。
「ああ、もう、寄るなってば、みんな見てるだろ!」
「ええやん〜、そばに寄るくらい〜。可愛えキミのお顔、そばでようく見たいんよ」
「見るなバカ!だいたい、なんでテメエまで、外出中の方に来るんだよ!ドアプレートとして、成り立たねえじゃねえか!」
「ええんやないの〜?外出中の方に気合の入ったプレートゆうコンセプトにしたったら」
「わけわかんねえ。在宅中は、誰も表にいねえじゃねえか!」
「メチャばっちりやん。ボクらが裏になるのは、丁度夜やで。誰にも見られんし、誰にも聞かれんし、休みの日なん、運がよければ、一日中二人の世界やvv」
「ありえねえ〜!」
 ふたりのあまりにも幸せそうなやりとりを見て、怒る気も萎えた。
 プレートに戻され、自由を失っても、日番谷と同じ側に潜り込んだ市丸は、この上なく満足そうだった。
 再び退屈な仕事に戻っても、市丸はもう二度と、プレートから解放されようとすることはないだろう。
 永遠に離れ離れどころか、そこは永遠に離れられない、夢の牢獄だ。牢獄というよりも、市丸にとっては、天国といってもいいかもしれない。
 永遠に、誰に邪魔されることなく日番谷とふたり一緒の上、相変らずふたりでひとつなのだから。
 藍染が引き取られてゆく時、市丸は満面に笑みを浮かべながら嫌味なくらい深く頭を下げ、藍染はんは、ほんまに粋なことしはるええお人や。ボク、藍染はんのこと、一生忘れません。ほんま、おおきに!と、似合わないくらい弾んだ嬉しそうな声で言った。
 日番谷も少し照れながら、世話になったな、元気でやれよ、と笑顔ではなかったが、幸せそうな声で言った。
 呆れるほどバカらしい結末となったが、これも運命の悪戯というやつだろうか。
 二人の可愛い子に感謝されて、それはそれで悪くない…と思うことにして、今回は見逃してやることにした。 



おしまい