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愛して、温めて−5

 市丸はそこでふと顔を上げると、雪や、と言った。
「今夜も冷えるね?いつまでもそないなところ立っとったら、寒いやろう?さあ、お入り?ボクが温めてあげるよって」
 優しく言ってこたつ布団を持ち上げる市丸に、日番谷は唖然として口を開いた。
「バカかお前…この状況で、ああそうですかとこたつに入るバカがいると思ってんのか!」
 市丸が持ち上げたこたつ布団の向こうで、遠赤外線の柔らかな光が、優しく誘うように温かく灯っているのが見えた。
 市丸は日番谷の答えにショックを受けたように、なんでなん、と切ない声を出した。
「温かいんよ。冷えたキミの身体を、芯から温めてあげるんよ。わかってはるはずやん、キミ。毎日気持ちよさそうに、入ってくれはってたやん。なんで突然、そない冷たいこと言うん」
 本当に傷ついたような顔をする市丸に、逃げるチャンスだと思うのに、どうしてもそれができなかった。
「そのこたつがあったかいのは、わかってるけど」
 とうとう折れるように言うと、市丸はパッと顔を輝かせた。
「そうやろう、そうやろう。もちろん今日も、バッチリなんよ。ああ、そうか。突然ボクが人間の姿で現れたから、戸惑ってはるんやね?ほならボクは反対側に入るよって、安心して、こっちにお入り?」
 言って市丸はいそいそと反対側に回り、大きな身体をするりとこたつの中へ滑り込ませた。
「ふふふ。完璧な温度調節や」
 満足そうに言って、気持ちよさそうにテーブルに顔を寄せ、微笑んでいる。
 その平和で幸せそうな顔を見ていたら、頭はおかしいけど、悪い奴じゃないかも、などとうっかり思ってしまい、とたんに寒さに、ブルッと身体が震えた。
「あ〜、おこた最高や。あったかいなあ〜」
 市丸がわざとらしく、誘うようなことを言ってくる。
「お前もしかして、どこかから逃げ出してきたのか」
「んん?」
「この寒空に、行くとこねえのか。そういうことか」
「ボクのいる場所なん、ここしかあらへん。逃げるとこも、行く場所も、他にないよ?」
「…そうか」
 よくわからないけれど、市丸からは、溢れるほどの、愛、のようなものを感じる。
 日番谷は暖への誘惑に負け、そろそろとこたつに近付きながら、
「それ、平子の食いかけだけど、もし腹減ってんなら、食っていいぞ」
 テーブルの上の弁当を指差して言うと、市丸はまた、ふふふ、と笑って、
「ボクはおなかなんすかへんよ。こたつやもん。キミこそそのプリン、こたつであったまりながら食べた方が、おいしい思うで?」
「…よくわかんねえけど。今夜は冷えるから、あったまってけよ。明日、もしかしたら、その、…病院とか、行くならついていってやるし」
「ボクは、どこにも行かへんよ?」
「…そうか」
 とうとうこたつに足を入れると、ふわっと温もりが、足だけでなく、全身に広がるように感じた。
 市丸の言うとおり、そういえば今年は他に暖房器具もつけないまま、今日まで過ごしてきていた。
 もっとも、日番谷がこたつから出るのは、風呂とトイレと寝る時くらいだけになっていたのだが。
「…どうやろうか?」
 日番谷がこたつに入ると、市丸が神妙な面持ちで聞いてきた。
 どうやらこたつの感想を聞いているのだろうと思って、
「…あったかいな」
 日番谷が答えると、市丸は嬉しそうににっこりと微笑んだ。
「キミの好みは知っとんねん。いつでもその時に合った、最高の温度にしといたる。今は、ちょっと熱めや。冷えた状態から、入ったばっかりやから」
「お前、ホントにこたつみてえ」
 日番谷が思わず笑うと、市丸はいっそう笑みを深くして、ようあったまってな、と言った。
 本当に不思議なことに、全くの不審者なのに、最初のパニックが過ぎると、こうして一緒にいても、何故か違和感がない。
「俺、この問題集やってから寝るつもりだから、お前の相手してらんねえけど、お前も勝手にそのへんの本とか、読んでていいから」
「この時間はお勉強の時間やて、わかっとるよ。頑張り屋さんやもんね?ボクのお仕事は、いつでも一番ええ温度にしとくことやから、ボクはボクのやることをやっとるよ」
「…まあ、好きにしろよ」
 ふたりが黙ると、温かな静けさが広がった。
 日番谷はすぐに勉強に集中したが、市丸がそれを邪魔することはなかった。
 いつの間にか、いることを忘れるくらい、この部屋の空気に溶け込んでいる。
 さっき少し運動をしたからか、色々なことがあって疲れたからか、日番谷はそのうち、少しうとうとしてきた。
 市丸がいるから、彼が寝るまで起きていようと思っていたのに、気が付いたら机に突っ伏して、眠っていたようだった。
 こたつが温かく、とても心地よかったからかもしれない。
 しばらくすると、またあの淫靡な熱が身体を包み始めた。
 今度は今までよりも確かな温もりが、確かな刺激を肌に与えてくる…
「…う、わっ…!」
 気が付いたら、いつの間にか市丸が、背後からしっかりと日番谷の身体を抱き締めていた。
 そのままその手が日番谷の身体のあちこちを撫で、あろうことか、股間に手を、…
「テメエ、何して…!」
 怒鳴ろうとしたら、大きな身体が被さるようにかがんできた。
 そのまま顔が近付いてきて、唇が重なり、その声を吸い取った。
 しっとりと吸い上げながらも、大きな手はそれを握り込み、ゆるく扱き上げてくる。
「…っ、ぅっ、」
 もやもやと身体の中でくすぶっていたものが、その手によって待ち望んだ解放を得ることができることを、本能で察した。
「…もっと大きく、あんよ開くんよ…?」
 色っぽい声が耳元で囁いて、日番谷の脚を、促すように大きく開いてくる。
「…あ、も、やめ、」
 もちろんやめてほしくなどなかったが、有り得ない事態になっていることは、理性ではわかっていた。
 突然現れた見知らぬ男に、そこをなぶられ、イかされようとしているのだ。
「大丈夫、ボクに全部任せて…」
 市丸の声は直接股間に響くほどいやらしく、背筋がゾクゾクした。
「…あ、あ、出る、出る、やめろ、離せ…!」
「ええんよ。ボクが全部、受け止めてあげるよって」
「…!!」