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愛して、温めて−3

「さ、入れよ。この部屋にこたつがあるんだ」
 早速和室に通すと、書斎のように整えているその部屋を、平子は何やら興味深い目で見回した。
「普通、親もいてへん家に友達入れたら、居間に通すもんやろに、和室なんやな」
「こたつがここにあるからな」
「居間にはエアコンあるやろ。そら、まあ、こたつもええけどな」
 日番谷がこたつのスイッチを入れ、先にそこに足を入れると、平子はう〜んと悩むように唸った。
「この場合、オレはどこに入ったらええんや」
「そこ」
 正面を指差して言うと、平子はもう一度、う〜んと唸った。
「まあ、間違いが起こってもあかんからな」
「間違いってなんだ」
「気にすんな、こっちの話や」
 言って平子はコンビニの袋をこたつの上に置き、日番谷の正面に座って足を入れた。
「デカいこたつやな〜。とりあえず、弁当食うで」
「ああ」
 日番谷はもう夕食は雛森のところで済ませていたので、一緒に買ってきていたプリンのふたを開けた。
「…あんまり効かへんこたつやな。デカさの割に」
 しばらくすると、少し身を竦めるようにして、平子が言った。
「え?何が?」
 スイッチを入れたらあっという間にあったまる、馬力もあるこたつだったので、日番谷は不思議そうに聞き返した。
「あんまあったかくないで、これ。スイッチほんまに入っとんのかいな」
「入ってるぞ?…そっちはあったかくないのか?」
 スイッチを確認して、こたつの中に手を入れて確認して、日番谷は眉を寄せて立ち上がり、平子の隣に移動した。
「…あったかいけど?」
「いや、なんや、ますます温度下がったような…」
 すぐ隣にいるのに、平子はそう言って、ブルッと身体を震わせた。
「何言ってんだ、こんなに…」
 こたつの中に手を入れて、平子の足の辺りに伸ばした日番谷は、途中で言葉を止め、平子を見上げた。
「…な?」
「なんでこんな、局地的に温度が違うんだ?お前、あっち側行けよ。あっちはちゃんと、あったかかったから」
「ほんまかいな」
 平子は面倒くさそうに腰を上げて、さきほど日番谷が座っていたあたりに、足を入れた。
「冷たッ!これ、こたつの温度やないで!なんで冷風が出んねん!」
 入れた足をすぐに出して、平子がびっくりしたように大声で言った。
「このこたつあかん!不良品や!入られへん!」
「そんなはずは…」
 日番谷は困って、もう一度スイッチやコードを確認した。
 こたつに入ってもらわなければ、日番谷のあの体験を、平子にも体験してもらう計画がダメになる。
 それでは、平子を呼んだ意味がない。
 日番谷はもう一度平子の隣に移動し、手を入れて、温度を確かめた。
 一瞬ヒヤッとしたが、すぐに暖かい空気がその手を包んだ。
「おかしいな。デカいから、効き方に場所で差があるのかな。自動センサーで温度調節する機能がついてるはずなんだけど」
 平子はそれを聞いてじっと考えてから、
「日番谷ちゃん、ちょうオレの足の上に手ェ置いてみい」
「…?」
 意味がわからないながらも言われた通りにすると、平子は、やっぱりな、と言った。
「日番谷ちゃんの手ぇんとこだけ、あったまっとる。このこたつ、オレんことはあっためたる対象や思うてへんで、どうやら。そのクソムカつく自動センサーとやらが、日番谷ちゃんだけあっためるように、識別してんねや」
「まさか、こたつに人間の区別なんかできるかよ。そこに人が入っているかどうかだけは識別して、省エネで部分的・集中的にあっためることはするみたいだけど、こんなすぐ近くで、ピンポイントで、…」
 言いかけて、日番谷はハッとした。
 あの淫夢の中で、自分の身体が、敏感な部分だけを集中的に温められたり冷やされたりしていたことを思い出したのだ。
(…夢じゃなかったのか?)
「…なんや、思い当たることでもあるんかい。そうか、わかったで。それでオレをここに呼んだんやろ、このこたつのことで」
「あ、いや…」
 鋭く切り返されて、日番谷はうろたえた。
 本当は、平子にも同じ経験をしてもらって、それが普通であることを保証してもらって、その対処法を聞くつもりだった。
 だが、この展開では、直で自分の体験を話して意見を仰ぐという、非常にこっぱずかしい状態になってしまう。
 こたつに入っていたら、こんな感じで局地的にあっためられたり冷やされたりして、それが気持ちよくて、あそこが勃ってしまうんですけど、そういう場合、どうしたらいいんでしょう。
(言えるか、そんなコトーーーー!!!)
 真っ赤になった日番谷を見て、平子はまたも直で、しかもやけに嬉しそうな顔で、 
「なに赤なっとんねん。やらしい話か。やらしい話につながるんか。言うてみぃ」
「や、別に…」
 ますます赤くなる日番谷に、平子はニヤニヤした笑いを浮かべ始めた。
「そういや日番谷ちゃんは精通あるんかいな。あ、そうか。わかったで。初めてここで、夢精した?」
「わーーーーー!!!」
「ビンゴか、こらええわ。エロい相談、大歓迎やで。なんや、マスのかき方でも教えたらええか」
「マ、マスって、」
 その単語は知らなかったが、恐らくそれこそ日番谷が知りたかったことだろうと、勘でわかった。
 だが、同時にその単語が下品で卑猥なものであることもわかったため、はいそうですとも言えなくて、言葉に詰まる。
「こら役得やな〜。ええとこで会うたもんや。教えたるから、ズボン脱ぎ」
「ちょ、」
 舌なめずりをするように、目を輝かせて迫ってくる平子に、日番谷が反射的にその手を払って逃げようとすると、
「冬獅郎になにしとんねん!お前、誰や!」