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愛して、温めて−2

 下からの熱は腰の辺りを包むように温めたまま、Tシャツの首や腕の穴からも、じんわりと侵入を開始していた。
 腋の下に熱がたまるとうっすらと汗をかいてきて、自然に腕を上げ、身体を開いた。
 Tシャツの上から胸に当たる熱が、全体をまんべんなく温めながら、乳首にだけ、すうっと冷たい空気を送った。
「…ぅ、あ?」
 自然に乳首が立ち上がって、Tシャツの布にこすれた。
「う〜、」
 それから逃れるように身をひねって胸を庇うようにすると、下半身は程よい温度のまま、上半身の方だけ、じわりじわりと温度が上がってくる。
「あ、あつい、」
 思わず上半身をこたつから出すと、外界のひんやりした空気が、汗をかいた身体から、急激に熱を奪っていった。
「うう〜ぅ」
 とりあえず汗を吸ったTシャツを脱いでこたつに潜り込むと、なんとも快適な温度に戻っていた。
 肌に直接当たる温もりも、びっくりするほど気持ちよい。
 裸でこたつになんか入ったら、本当は身体に悪いんだろうな、行儀も悪い行為なんだろうな、とぼんやりと思ったが、半分は夢の中だったし、心地よさに負けた。
 それに、今やこたつは最後の一枚までもを脱げとでも言うように、そこばかりを集中的に温めてくる。
「ん〜、なんだこのこたつ。壊れてんのか?」
 ぼんやりしながらも、それを脱いだら、そこをとんでもなく気持ちよくしてくれるような気がして、今まで服を着たままでもどれほど気持ちよかったかを身体が覚えていて、(素っ裸でこたつって)と思いながらも、どうせこの家には自分ひとりなんだという気持ちも手伝い、とうとう最後の一枚に手をかけた。
 狭いこたつの中でもどかしく脱いでゆくのをじっと待つように、こたつは再び心地良い温度で、日番谷を包んだ。
「………あ」
 脱いだとたん、明らかにそこに刺激を与えるように、ピンポイントで当てる熱を変えてくる。
 乳首にも、腋の下にも。
「…あ、ぁ、…ぅ…っ…」
 あっという間にそこが立ち上がり、無意識に足を開いて片膝を立てると、股間のもっと奥にも、焼け付くような熱が当たった。
(ヤバい…なんだコレ…あ、も、どうにかなる…!)
 どうにかなる、と思っても、達するほどの刺激はなく、その高まりをどうやって解放したらいいのか、その方法を日番谷は知らなかった。
「うあっ、ダメだ!」
 どうにもならないもどかしさに完全に目が覚めて、日番谷は慌ててこたつから飛び出すと、脱ぎ捨てた服を拾い集めて急いで着込んだ。
「クソー!なんでこんなことに…!」
 もう少し性に対して知識があれば、このよくわからない衝動も火照った身体も、どうにかしようがあるのだろうが。
 日番谷は自室に上がってジャージの上下に着替えると、近くの公園をぐるっと回るランニングに出て行った。

 寒い空気にあたり、身体を動かすと、高まった熱も収まり、なんとか落ち着いてきた。
「ふう〜、まいったぜ…」
 広い公園のベンチまでくると、ウーロン茶を買って休憩をし、タメ息をついた。
「絶対おかしいよな、あのこたつ。それともなんか変な夢でも見たのか、俺?」
 ああいうことも、これぐらいの年の男の子には普通のことだと、誰か言ってくれ、と思った。
 誰にでもあることだとわかれば、そしてそういう時どうしたらいいのかわかれば、こんなに悩むこともなくなるだろうに。
 何かわからないことがあれば、ネットで検索をすれば、ある程度知識を得ることはできた。
 性的な事柄に関しては、恥ずかしい思いをせずに知識を得られる点で、とても有用な方法でもあった。
 だが、自分の体験が一般的なものなのかどうか、そういう場合どうしたらいいのか、どんな言葉で検索して、どうやって答えを得ればいいのか、日番谷にはわからなかった。
 何でも相談室のようなものに体験を投稿して答えを待ってもいいが、あの感覚を言葉でどう表現して、どうやって伝えたらいいのかも、よくわからない。
 夢でも見たのだろうと思われたら、恥ずかしい思いだけをして、答えてもらえないかもしれない。
「あら、日番谷ちゃんやん。こない寒いのに、そこで何しとんねん」
 突然声をかけられて顔を上げると、近所で一人暮らしをしている大学生、平子だった。
 飄々としていていい加減に見えるが、頭は相当よく、色んなことを知っている。
 日番谷も年の割に非常に頭がいいと認めてくれていて、友達のように接してくれていた。
 同じ年の者相手ではできないような討論や意見の交換を、近くのファミレスなどで長々としたりする仲だ。
 日番谷は少し考えてから、良かったらウチでお茶でも飲んでいかないかと誘ってみた。
「へえっ、日番谷ちゃんち?オレ完全不審者やんか。やめとくわ、めんどいし」
「今、親いねーんだ。俺ひとり」
「えっ、なんで?」
「仕事で。だから、茶くらいいいだろ。なんなら、ついでに泊まってけよ」
「ふ〜ん、近頃の親は日番谷ちゃんくらいの年の子供一人置いて、平気で仕事行くねんな。危ない世の中やなあ」
「隣の雛森んちの親が、色々面倒みてくれてるんだ。いいだろ、来いよ。俺んち、すげーこたつが入ったし」
「こたつ?そんなもん普通やんけ。餌としちゃ薄いで」
「…そうかな?」
 意味ありげに日番谷が言うと、平子はすぐに何かを感じ取ったらしかった。
「ま、ええか。そんかわり、弁当おごって」
「子供にたかるなよ、お前。大人のくせに」
「裕福な子供にはたかってもええやろ。実質払っとんのは日番谷ちゃんちの親やし、オレ貧乏学生やし」
「しょうがねえな」
 とにかくそんなわけで、平子を部屋に連れ込むことに成功した。
 あとはこたつに入らせて、そこで寝させて、どうだったか聞くだけだ。
 途中で寄ったコンビニで、少々の酒や、つまみや菓子なども買って長居させる準備万端にした。
「おじゃましまーーー」
 玄関をくぐるなり平子は大声で言ったが、返事が返ってこないことを確かめて、ホッとしたようだった。
「ほんまに一人かー。ええ身分やな自分、こない大きな家で一人暮らし」
「恵まれていることは認める」
「ははあ、さては淋しいんやな。頭ええ言うてもお子ちゃまやもんなあ。なんなら親帰って来るまで一緒に住んだろか?」
「誰がお子ちゃまだ」
 怒って足を蹴飛ばしてやると、平子は大げさに悲鳴を上げて、ホンマのこと言うただけやんけ、とわめいた。