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愛して、温めて−1

 すっかり寒さも厳しくなってきたその日、日番谷は学校から帰って来ると、まっすぐ和室へ向かい、こたつのスイッチを入れた。
「う〜、寒い。やってらんねえ」
 とりあえずスイッチを入れてから自室に戻り、部屋着に着替え、おやつを台所から持って来て、再び和室に戻る。
 その頃にはこたつも暖まってきていて、日番谷はいそいそと足を入れて、身体を丸めた。
「ん〜、極楽vvやっぱ冬はこたつに限るぜvv」
 日番谷の両親は夏から仕事で海外に行っていて、日番谷は今、一人暮らしだった。
 隣の雛森家が昔から日番谷家と仲がよく、日番谷の日常の面倒を見るという約束で、まだ学生だった日番谷を一人置いて、両親だけ旅立つことになったのだ。
 朝晩の食事やお弁当は雛森家で作ってもらい、雛森家の一員のように一家団欒の時間を過ごしてから、日番谷は自宅へ戻り、自分の時間を過ごす。
 もちろん雛森家は日番谷の部屋を用意し、こちらで一緒に暮らしても良いと言ってくれているのだが、雛森家には日番谷と年の近い桃という女の子がいたので、日番谷は丁寧に断って、何かあった時だけ、よろしくお願いしますと言った。
 それに日番谷は、一人の方が気が楽でよかった。
 何でも自由だし、気も使わなくていい。
 丁度一人暮らしをしてみたい年頃でもあった。
 だが、一人で暮らすには大きい家でもあり、日番谷が一人になってから親にねだったもの…それが、このこたつだった
 今までは、食事を終えたら早々に自室に引き上げて、一人で遅くまで勉強なりなんなりをするのが常だった。
 自室にも居間にも快適なエアコンがあり、和室は専ら客間的にしか利用されておらず、それまで日番谷家には、こたつというものがなかったのだ。
 両親がいる間は、自分の時間を邪魔されたくなくて、こたつが置かれたとしてもそれを利用する気はなかったが、憧れのようなものはあった。
 友達の家や雛森家にはこたつがあって、そこに入るとのんびりまったりした気分になり、日本人の喜びのようなものを感じたものだ。
 今回期せずして一人暮らしをすることになり、どこにいても誰にもひとりの時間を邪魔されることもない状況となり、夏が過ぎ、寒くなってくると、日番谷は一番にこたつを入れることを思い立った。
 そこで、両親に言って、買ってもらうことになった。
 一人暮らしといっても自宅なので、両親と、買い物に付き添ってくれた雛森家の親達の考えで、日番谷一人には大きすぎる、立派なこたつが入った。
 無駄に最新機器の大好きな両親の好みで、高感度で細かく温度調整ができる最新式の、テーブル部分もこたつ布団もそれはもう上等なこたつだ。
 たかがこたつに、無駄にデカくて高性能なもん買いやがって、うちの親はバカなんじゃないか、と最初日番谷は思っていたが、いざ実際に入ってみると、そのゆったりした大きさも、常に完璧な温度で温めてくれるそのセンサーも予想以上に快適で、すっかりお気に入りになってしまった。
 今ではすっかり、日番谷の主な生活の場所は、和室になった。
 パソコンや勉強道具も和室に移動させ、さながら書斎のようになっている。
 自室に戻るのは、着替える時と寝る時くらいのものだった。
 最近では、あまりの気持ちよさにそのままそこでうとうとして、朝まで眠ってしまうことすらあった。
 そんな時見る夢は…、あまり詳しくは覚えていないが、何故か、甘美なものが多かった。
 大きな身体に柔らかく抱き締められるような、身体の隅々までを、優しく温かく愛撫されるような。
 その日も日番谷は雛森家での夕食を終えて自宅に戻り、再び勉強を始める前に少し休憩するつもりでこたつの中にもぐり込んで、そのままうたた寝を始めた。
 すぐにまた、いつもの夢が始まった。
 足の先からゆっくりじっくりと、ほどよい加減から少しだけ熱い熱が、舐めるように這い上がってくる。
 足の付け根までくると、今度は焦らすようにその熱は首の下へ移動して、そこからまたじっくりと、身体全体を熱で愛撫しながら、腰の方へ下りてゆく。
 これも、高感度で局地的に温度調整のできる、このこたつの機能なのか。
 それにしては、やけに艶かしい部分…首筋や腋の下、乳首の辺りや膝の裏、足の裏、指先…のようなところばかり、丹念に温めてくるような気がする。
 そしてもちろん、尻や股間へのそれは、特に念入りだった。
 夢の中でそれはとても心地よく、性的な快楽などまだ知らない日番谷にとっては、ひどく淫らなものに感じた。
 そしてついに先日、朝までこたつで眠ってしまった時にその夢を見て、下着を汚してしまったのだった。
 知識としてだけはそういうことを知っていた日番谷だったが、驚いて、そういう時どうしたらいいのかも、わからなかった。
 だが、あまりに恥ずかしくて、親がいなくて良かったとも思った。
(うう、クソ、こたつで気持ちよくて夢精て、有り得ねえ…)
 日番谷はこたつの取り扱い説明書を取り出してきて、読み返してみたが、もちろんそんな機能がある様子もなかった。
 ならばきっと、あまりにこたつが気持ちよくて、勝手に自分がいやらしい夢を見ているのだ。
 成長過程の上で、自然な身体の機能だとわかっていても、そのことに、妙な罪悪感のようなものを覚えた。
 だが、それはこたつの問題ではなく自分の問題だし、相変らずこたつはこの上なく快適で、行儀については厳しく育てられた日番谷には、そこで眠ってしまう自由さも今だけだと思うと、その誘惑に抗うこともできなかった。
「…ん…」
 いつも完璧な温度を提供してくるそのこたつにしては、その日はちょっと、温かすぎるようだった。
 じんわりと汗をかいてきたことを感じて、日番谷は寝惚けたまま、着ていたスウェットと、ジャージを脱いだ。
 その下にはまだTシャツを着ていたが、厚い布地がなくなると、こたつの熱は、更に心地良いものに感じた。
「…ん、んん…」
 素足を直接包み込んでくるような熱は、最初は単純に気持ちが良かったが、そのうちまた、ゆっくりと愛撫するような温め方になってきた。
 足の指の間にまで入り込んでくるような、絡み付くような熱を払おうと足を動かすと、足の裏側をねっとりと這うように上ってきて、膝の裏のくぼみを狙ってくる。
 膝を曲げてそこをガードしようとすると、更に深くもぐりこんでこようとしながら、別の熱が、腿の表面を撫でるように進んできて、Tシャツの裾からその中へと侵入してくる。
「…ぅ…」
 無意識に、甘い声が漏れた。