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ボクの可愛いサンタさん−3

 まさか、これは夢だろうか。
 目の前の光景が信じられずに、市丸は呆然とその姿に見惚れた。
 日番谷が自分から部屋に行くなどと言うはずがないし、松本のチョコレートというのも、絶対怪しい。
 そもそも普段よりテンションの高い状態の市丸と夜を過ごしたくないという理由で会いたいというのを断られたのに、精力剤入りチョコレートを自ら渡してくるわけがない。
 精力剤という言葉は使わなかったが、いくら日番谷がうぶでも、本当にああ言われて松本に渡されたなら、そのニュアンスくらいは、わかったはずだ。
 そう思って会が終わった後、隊舎に戻って運悪く夜勤で出ていた三番隊の隊員にひとつ食べさせてみると、五秒ほどでばったりと倒れて動かなくなった。
「怖ッ!ボクのこと毒殺するつもりなんか、あのふたり!」
 劇的に倒れはしたが、死んではいないらしく、どうやら睡眠薬らしかった。
「何したくてこないなもん、渡してきたんやろう…?」
 今晩市丸に夜這いをかけられないで、安全に眠るためだろうか。
 一番考えられるのは、それだった。
 だが、それなら自分の周りに結界でも張った方が、よっぽど確実なはずだ。
 第一、わざわざあんな演技までして渡すのだから、何か他に狙いがあるはずだ。
 市丸を眠らせるということは、眠っている間に、何かするつもりなのだろう。
 ならば少なくとも、部屋には本当に来るつもりなのかもしれない。
(まさかサンタさんやりたいいうわけでもないやろうしな〜)
 クリスマスの夜にぐっすり眠った子のところに来るのは、サンタクロースだ。
 だが、日番谷がサンタの真似をしたがるタイプとも思えない。
(それともほんまにプレゼント持って来てくれるんかいな?)
 悩みながらも、本当に来てくれた時のために、部屋の飾りつけなどしてみる。
 なんとかしてどうにかして日番谷を部屋に連れ込むつもりだったから、もともと準備はしていたのだ。
 連れ込めなかったら、無理矢理忍び込むつもりだったので、使われないことも想定はしていたが。
(12時まで待って来ぉへんかったら、様子見にいこか…)
 日番谷は、市丸がチョコレートを食べて眠っていると思っているだろうから、準備ができると、一応布団の上で、寝たふりなどをしてみた。
 そうしてしばらくすると、本当に日番谷が現れたのだった。
 サンタの格好をして。
 しかも誘っているとしか思えない、夢のようなミニスカートタイプのサンタルックだ。
(ありえへん…何が狙いか、さっぱりわかれへん…!)
 興奮で揺れる霊圧を抑えるのに、苦労した。
 誘っているなら、眠らせる意味がわからない。
 眠っていると思っているなら、わざわざそんな格好をしてサービスしてくれる意味がわからない。
 わからないが、このまま黙って帰すなんて、とてもできそうになかった。
「…サンタさんや…」
 思わずもれた言葉に、日番谷がビクッと反応して、固まった。
「しかも可愛えミニスカートのサンタさんや」
「ミニスカートじゃねえ!」
 今にも逃げ出そうとしていた日番谷だったが、その言葉は聞き逃せなかったらしく、くるりと振り向くと、突然自らスカートをまくって、
「ちゃんと下にズボンはいてる!」
 丈の長い上着の下に、ほとんど短パンと言っていいほどの長さのズボンをしっかりはいていることを、アピールしてきた。
「なんでそこで下はいてんねん!ありえへん、いらん!」
 それを見た瞬間、もうほとんど反射の勢いで、市丸は日番谷に飛びついていた。
「うわっ、逆ギレ!」
「ズボンはいらん。脱ぎや!」
「や、やめ、やめろ!」
 こんな格好でここまで来ておいて、日番谷は本気で抵抗していた。
 なんとかズボンを死守しようとするが、腰のところはゴムだったため、守る日番谷の手と下ろそうとする市丸の手の間で、ゴムが伸びて可愛い下着が露になった。
「あ、赤や…!」
 レースやリボンはついてないが、ちょっとフリルはついていて、どう見てもそれは、男物ではないような…?
 目を疑うようなサービスはだが、それだけではなかった。
「ひつがやはん…このバンドはなんやねん…」
 思わず、声が震えてしまった。
 パンツのすぐ下、右の腿にだけ、その柔らかな肉に食い込むように、赤いレッグバンドが回っていたのだ。
「えっ、バンド?」
 日番谷はそれそのものやその効果についてはよくわかっていないようだったが、市丸には効いた。
 その艶かしい光景に、市丸の目は興奮のあまりギラリと光り、思わずマジ中のマジになった。
「う、うわ!」
 パッと神鎗に手をかけると、一閃のもと、ズボンを両断してしまう。
 赤い布が、ハラリと宙を舞った。
「やった、これで可愛えミニスカートのサンタさんや〜vvほれ、もう一度、バンド見せてvv」
「やったじゃねえ、何しやがる!お…お前、目が普通じゃねえぞ!ちょっと、マジで離せ!離せったら!」
「あかん〜。こない可愛えもん、離されへん」
「お前、なんで眠ってねえんだよ!俺のやったチョコレート食わなかったのか!」
「ええことあるチョコなんやろう?なんで眠らなあかんの?」
 騙そうとしたことをやんわりと責めつつ、うわてであることをみせつけるようなセリフに、日番谷の頬がカッと染まった。
「ふ〜ん、眠らせるつもりやったんや。あかん子や。眠らせといて、こない色っぽい格好して、何が狙いなん?」
「色っ…なんだそれ!これは、…松本が…」
 松本が用意したものだろうということは、想像がつく。
 日番谷が選んだなら、見た目よりも機能性や本来の伝統を重視し、普通の長ズボン型にしたはずだ。
 こんな可愛らしい、前もボタンではなく白いポンポンがふわふわついている、上下セパレートではなくワンピース型の、大きくめくったら胸まで見えてしまうような、色っぽさまで兼ね備えている服を選ぶわけがない。
 赤いパンツやレッグバンドなど、つけるはずもない。
 日番谷を納得させるため、ごく短いズボンを用意したが、やはりスカートに見えるようにしたかったのだろう。
 そのあたりの趣味は、市丸とよく似ているのだ、あの幼馴染は。
「乱菊は、会の時から着せようしとったやん。キミそれ、キッパリ断っとったやん」
「それは、み、みんな見てるし…」
「ボクの前だけやったら、ええゆうこと?」
「違…」
 そんな可愛いことを日番谷がしてくれるとは信じがたいが、現に今、そうなっているのは事実だ。
「可愛えボクのサンタさん。このまま抱かせて?な?ええやろ?」
「うわっ、へ、変態!」
「煽ったのは、キミやで」
 後ろからしっかりと抱き締めると、布の上から、そこをなぞった。