神隠しの杜−17

　それからまたゆっくりと、その愛らしい顔中にくちづけを落としてゆく。
「…ん…」
　とてつもなく可愛らしいことに日番谷は、直接性器に愛撫を施す時よりも、こんな行為で本当に感じ入ったような反応をする。
　震えながら、ためらいながら、全身で「市丸が好き」と言っているように見えてしまって、どうやったら、自分がそれに負けないくらい日番谷を好きだと思っていることを伝えられるのか、必死で考えてしまう。
　市丸は日番谷の背の氷輪丸をそっと下ろして、布団の外へ置いた。
　日番谷は少し目を落としてされるままになりながら、それを許してしまうことを、自分の中で一生懸命言い訳しているように見えた。
「…可愛え子」
　言わずにはおれなくて、勝手に言葉が唇から滑り落ちた。
　小さな身体を引き寄せて、膝の上に座らせるように抱き締めながら、優しく唇を合わせる。
「んっ…」
　可愛らしい、吐息のような声が、鼻から抜けるようにこぼれた。
　彼を好きだと言って、そばにおいでと言って、優しく抱き締めて、キスをして、…こうやって手順を踏めば、この子は震えながらも、こんなにおとなしく身を任せてくる。
　それがわかって、そのことがどうしようもなく可愛くて、感動で腕が震えそうになってしまう。
　もう我慢したくないとガンガン喚く欲望をなんとかなだめて、そっと、そうっと、小さな身体ごと、その身を布団に横たえていった。
　日番谷はうっとりと身体の力を抜いていて、やわらかく布団の上に身を沈めた。
　その様子は愛らしくも妖艶で、市丸の心臓を鷲掴みにした。
「…日番谷はん…」
　ドクドクと脈打つ音を耳の奥で聞きながら、着物の上から、小さな身体にそっと手を這わせる。
「…あ…」
　我ながらゆっくりすぎる進み方に気が遠くなりそうだったが、日番谷のその安心したような、うっとりした声を聞くと、やっぱり優しく丁寧に進めてやりたくて、市丸は改めて理性をかき集めた。
　着物ごしでもわかる小さな身体が市丸の手に反応する度、愛おしくて、クラクラした。
　日番谷のあのしっとり吸い付くような柔らかな肌を思い出すと、早くそれを味わいたくて、彼が着ている着物が、全部邪魔に思えてしまう。
　袴の紐をほどいてしまおうと手をかけると、初めて日番谷は抵抗するように、小さな手がブロックしてきた。
「この可愛えお手々は、何やろう？」
「あっ」
　布団の上で重なって、キスをして、完全にその流れなのに、そこまではすんなり受け入れたのに、着物を脱がせようとすると抵抗するなんて、市丸には全く理解不可能だったが、行為に慣れないそんな様子は、日番谷があれから誰ともこの行為をしていない証明のように思えて、自然に頬がゆるんでしまう。
　優しくしてあげたいと思っていても、そんなふうに恥らわれると興奮してしまって、もっと恥ずかしがるところを見たいと思ってしまうのは、男の本能だろう。
「お手々、離し？キミのあそこ見たいねん。あれからどれだけ成長したやろか？」
　そんなことを言ったら恥ずかしがって余計に嫌がるのは分かりきっているのに、つい言ってしまった。
　しかも日番谷はその言葉に動揺して、
「バ、か、変わってね…っ」
　ぱっと一度頬を染めて言って、言ってからまた、更に真っ赤になった。
　それから今度は怒ったような顔になり、市丸の胸を可愛い拳でガンガン叩いてきた。
　その様子があんまり可愛くて、可愛くて、市丸の満面にとろけるほどの笑みが広がる。
「変わってへんねや〜。ほんまなん？ほんまにまだあそこの毛・とか生えてへんの？」
「とかってなんだよ、とかって！それ以外なんか生えるもんあんのか！」
「あそこの毛、まだ生えてへんの？」
「くそっ、教えねえ、絶対ェ！！」
「え〜、教えて〜」
　身体を丸めて必死でそこをガードしようとする日番谷に、市丸は身体全体で包むように被さりながら、愛しくてたまらない笑みが、ふふっ、と唇からこぼれ落ちた。
「…ボクのこと、待っててくれたんやね？」
　市丸の囁くその息で、日番谷の首筋の産毛が、ふるっと震えた。
　死神の成長は、確かにゆるやかだ。
　だがこれくらいの年齢なら、いつ急激な成長があっても、何もおかしくない。
　死神になって、護廷隊に入って、隊長になって。
　あれから髪型も変わり、表情や雰囲気も隊長らしく立派に落ち着きを見せているが、この、世にも可愛い小さな身体が、あの時のままここにあるなんて。
　本当に、本当に自分を待っていてくれたような気がしてしまって、市丸は顔を伏せている日番谷の額のあたりの髪をそっと分けて、地肌に優しくキスをした。
「ほんまやろか。ほんまに変わってへんねやろか。ほんまはボクの見てへんところで、成長してもうたんとちゃうの？」
「エロおやじか、テメ…」
「しててもええねん。同じでもええねん。ただ、確かめておきたいねん。キミの可愛え身体の変化は、みんな知っておきたいねん」
　市丸の言葉に日番谷は顔を上げ、変な生き物でも見るような顔をした。
「…おまえ、あたま、おかしい…」
　だが、目を長く合わせていられなかったのは日番谷の方で、そう言いながら、恥らうように俯いてしまう。
「ええやんか。おかしくさせるの、キミやもん」
　本気でそう言って、市丸は日番谷の頬に手を当ててこちらを向かせ、額に軽く唇を押し付けてから、唇を合わせた。
「…ん、」
　日番谷の身体が、緊張を解いて、やわらかく溶けてゆくまで。
　歯列の裏側を舐め、逃げようとする舌を追いかけて絡め、時折唾液を注ぎ込み、飲み込み切れずに溢れる二人分の透明な滴が愛らしい唇から顎を伝って喉元まで濡らしてゆくほど深く唇を重ねながら、優しく優しく身体中を撫でてゆく。
　そうしながらも、日番谷の身体が本当にあの時から変わっていないのか、市丸は気が狂いそうなほど、早く確かめたくて仕方がなかった。
　今度はいきなり袴に手を出したりしないで、着物の合わせ目にそっと手を入れる。
　あの時と変わらない夢のようになめらかな肌の感触に、胸が高鳴った。
「…ぁ…」
　可愛らしい鼓動がすごい速さで打っているのを感じて、目の前の少年を、いっそう可愛らしく思った。
「…あ、…さ、わる、な…」
「なんでなん？なんで触ったらあかんの？」
「ん、…ぁ、だめ…」
　だめ、と言いながらも、その声は感じ入ったみたいに甘く、ほとんど抵抗らしい抵抗もなくて、市丸の笑みはますます深くなる。
「ええやん…触らせて…な？もっと触らせて…？」
「…んん…あ、ぁ…だめ…」
　日番谷は必死で抵抗しているつもりらしかったが、まるで逆にその言葉で、誘惑されているみたいだ。
　どうしようもなく煽られて、市丸はその小さな可愛らしい身体を、両手で存分に撫で回した。
「…ぅうっ、あ、やぁっ…」
　嫌がるように身をよじる様子も、もっと触ってほしいと言っているみたいに、クラクラするほど淫らで艶めかしく見えた。
　そして何より、両手にすっぽり入ってしまうほど細くて小さな身体の、ふっくらと弾力があり、吸い付くように両手になじむ、得も言われぬ触り心地。
　じっくりと触って堪能するだけでは足りず、唇でも触れずにはおられなくて顔を下ろしてゆくと、その肌は幼く甘い匂いがして、やっぱり変わらないその瑞々しさに酔ってしまいそうだった。
「あ、っ、」
　ちゅっと胸に吸い付くと、震えるような甘い声が上がる。
　その声をもっと聞きたくて、可愛らしい胸をそっと寄せて、順番に両方とも吸い上げた。
「んん、…ぅん…」
　日番谷の唇から悩ましい声が上がり始めると、結界の外に、ますます多くの獣達が集まってくる。
　あの夜の興奮がじわりと甦ってくるが、今回は何一つ、言い訳も、口実も、心ゆくまでこの子を愛してやるのに邪魔なものは何もない。
　愛しているから抱くのだと言って、言葉通りにできることが、何より嬉しかった。
　大きく着物を開いてやると、輝くような肌が眩しい。
　市丸の舌が通った道が、キラキラ濡れて光っている様子も、眩しいほどに艶かしい。
　市丸は、今度は何も言わないまま、素早く静かに袴の紐を解いた。
　抵抗される前に細い腰をぎゅっと抱き締めて浮かせてしまい、有無を言わせず袴を取り払う。
「あ、…っ！」
　慌てたように日番谷が両手で胸を押してきたが、それすら抱き込んで、もう一度唇を重ねた。
　見たい。
　早く見たい。
　あの砂糖菓子みたいな、可愛らしいものを。
　本当にあの時と変わっていないのか、日番谷が自分では見られないところまで、じっくりと見て確かめたい。
　いまや無防備になっているそこを、今にも開いて見ることを想像して、心臓がどんどん高鳴ってくる。
　自分がそこを隅々までじっと見て、彼の全てを知ることを、この少年自身もじっくりと味わって、自分が市丸のものであることを、心の芯まで理解してほしいと思った。
　初めて会ったあの瞬間からそれは決まっていて、だから日番谷は、例え一度記憶を失くしたとしても、もう一度自分から市丸の元へ来ずにはいられなかったのだと。
　市丸は気が遠くなるほどの忍耐をして、再び日番谷の唇に戻り、そこを露わにしないまま、そっと着物の上からそれに触れた。
「…ん…」
　口付けながら、着物越しの優しい愛撫に、逃げかけた腰が勢いを失い、じきに大人しく手の中に身を預けてきた。
　着物の上からでも、そこが可愛らしく立ち上がり、もっと先の愛撫を求め始めてきているのがわかる。
　それに応えるように、そこを見ないまま着物の中にそっと手を入れると、日番谷はビクッとはしたが、抵抗しなかった。
　なめらかで、しっとりと柔らかい、夢のような肌ざわり。
　何もかも、本当にあの時と変わらないように思えて、歓喜に脳の奥深いところが、痺れるように感じた。