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ハートライン−5

  一瞬、市丸との通信が途切れたようになった。
 ぱっと弾けた視界に意識が飛びそうになりながらも、こんなところで市丸との通信が途切れてしまっては嫌だ、と思った。
 もう少し、もう少しでいいから、声だけでもそばにいて欲しいのに。
「冬獅郎っ!」
 だが次の瞬間、突然部屋の扉が開いて、いるはずのない男が現れた。
「あ、い、いちまるっ…?!」
 現実だと思っていたが、これは夢だろうか?
 朦朧としながらも呆然とする日番谷に、市丸は飛びつくように伸し掛かってくると、布団の上から、ぎゅっと抱きついた。
 一度そうして日番谷を落ち着かせると、今度はいきなり布団を引き剥がしてくる。
「わっ、なに…」
「ほんまに入っとるーっ!大興奮や〜!!」
 抵抗する間もなくがばっと日番谷の両脚を広げ、市丸はその間を覗き込んで大声を上げた。
「バ、バカ、やめ、」
「冬獅郎、もう無理や、我慢できへん」
「お、おま、おまえ、」
「頑張ったな、上手にできとったよ。今度はボクが全部したるから、冬獅郎は何も考えんと、ボクに任せてな?」
「ちょ、待て、待て、あっ、…」
 全く状況がわからないまま、有無を言わせず挑みかかってくる市丸に、日番谷は為す術もなく、再び追い上げられていった。


「信じらんねーっ!なんでテメエ、ここにいるんだよ!現世の任務ってのぁ、ウソかっ!」
 ようやくようやく解放されて落ち着くと、当然日番谷は、目を吊り上げて市丸に食ってかかった。
「ウソやないよ〜。ただ、ちょぉ〜っと出発の予定が遅なっただけや。明日の朝には、ほんまに出かけんねん」
「だったらそう言えばいいじゃねえか!なに現世にいるみたいなこと言って、電話してくるんだよ!」
「ボク、現世におるなん一言も言うてへんよ?会えへんことには変わりないんやから、ええと思うたんや。せめて声だけは、聞きたかったんやもん。あかんかった?」
「会えないって、来てんじゃねえか!」
 市丸の理屈は、さっぱりわからない。
 結局現れてヤッてゆくなら、最初から来ればいいではないか。
 その点を強く日番谷が問い正すと、
「いや〜、ほんまはあかんねん。ボク今隊首室で緊急待機中やねん。せやから、もう戻らなあかん。堪忍な?」
 日番谷の顔色を窺いながら、逃げるようにジリジリと、扉の方へ後ずさってゆく。
「まさかお前…隣に吉良がいたんじゃ…?」
「ちゃんとひとりやったで。イヅルがおったら、ここまで来させてくれるかいな。あの子はずっと、準備に追われっぱなしや。…ほんまあかん。そろそろバレる頃や」
「テメエ…ふざけるにもほどがあるぞ!隊長のくせに、何やってやがる!さっさと帰れ、バカ野郎ッ!」
「怒らんといて〜。ほんまは帰りたないんやで?キミと夜を過ごした後は、できる限り朝まで一緒におるて決めてんねん。できればここでこのまま、待機しとりたいねん。あ、せや。そうしよか?イヅルんとこ、地獄蝶飛ばして…」
「帰れ―――――ッッッ!!!」

 その後結局追い出された市丸だったが、こんな時のための愛のホットラインは、次の日無事その本来の役目を果たしたのだった。


終わる