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ふたりだけの…

部屋の外では、木枯らしがぴゅうぴゅう吹いていて、もう夜になると、しんと冷え込んでくる。
 市丸は、今日も日番谷の部屋に居座って、もうすぐ冬獅郎の誕生日やね、などとご機嫌に言っていた。
「何か欲しいもの、ある?なんでもプレゼントするで?冬獅郎だけ特別に、ボクが欲しいゆうのもアリやで?」
「いるか、今更。別に欲しいものなんて、ねえよ」
 それより読書中だから、邪魔すんな、と心の中だけで言うと、市丸は「何読んでんの」と言いながら寄ってきて、
「そういえば、冬獅郎の誕生日のすぐ後のクリスマス会とやらやけど」
「ああ、あったな、そんなの」
「ボクは途中で抜け出してまおうと思うとるんやけど」
「好きにすれば」
「キミも抜け出して、外で会って、ふたりだけでクリスマス会やらへん?」
 日番谷は本から目を上げて、ジロリと市丸を見た。
「ヤダ。怪しまれる」
「何言うてんの、今更」
「今更ってなんだ。お前と付き合ってんのは、秘密だからな?」
 日番谷が強く言うと、市丸の方が変な顔をした。
「なんだよ」
「そら…あの日にキミが大人になったことは、ふたりだけの秘密やけど。…ボクらが付き合うてることは、皆それとなく知っとると思うで?」
「ええっ!なんで知ってんだ!」
 余計なことまでくっつけて言ってきた市丸の言葉に、日番谷がびっくりして大きな声を出すと、
「なんでて…。わかるやろ、普通。これだけラブラブ光線出してたら」
「出してねえ!」
「ボクが出しとるよって」
「なんで出すんだ!出すな!」
「出てまうもん、しゃあないやん。好きなんやもん、隠せへん」
「子供か!」
 そりゃあ、いつまでも隠し通せるとは思っていないが、わざわざ知らしめることでもないと思っていたのに、
「皆に知ってもらうとええんや。そしたらキミはボクに対して男としての責任果たすべきやて皆がプレッシャー与えるよって、キミはボクを捨てられへんようになるやろ?」
「女か、お前!」
 日番谷が怒ると、市丸は笑って、「なあ、キミ、ほんまにほしいもの、ないん?」と話を戻してきた。
「誕生日プレゼントでも、クリスマスプレゼントでも、どっちでもええで。ボクは両方あげるつもりやから」
「あ、ちゃっかりお前、自分もクリスマスプレゼントを要求しやがったな?」
「クリスマスツリーに下げるお願いごと、ボク、もう決めてんねん」
「願いごとをするのは七夕だ、バカめ。願いごとを下げるのも、ツリーじゃなくて、笹だ」
「ボクらの幸せ、誰にも邪魔されへんようにって」
「はぁ?」
「ボクの願いごとや」
「……」
 市丸は、大きな身体で日番谷に甘えるように抱き付いてきながら、甘ったれた声を出した。
「…じゃあ、それ、ツリーに下げとけば?」
「願いごとをするのは、クリスマスやなくて、七夕やで?」
「テメエ、殺す」
「わ、嘘、冗談です、冗談」
 日番谷が氷輪丸に手を伸ばすと、市丸は慌てて言って、猫のように膝に顔を擦り寄せてきた。
「ボクが欲しいのは、冬獅郎だけやから。あとは何もいらへん」
 いつも最後はこうやって甘えてごまかす市丸に、日番谷はタメ息をついた。
「仕方ないな。じゃあ、クリスマス会は、途中で抜け出してやるか…」
「えっ、ほんま?!」
「それ以外のプレゼントは、何もやらん」
「十分や。ああ、早うクリスマスにならんかなぁ」
「その前に俺の誕生日だ」
「一日中、ボクをあげる」
「仕事の邪魔だ。それとも手伝うか」
「誕生日くらい、仕事休みや〜」
「この年末に、休めるか!」
「難儀な時に生まれてもうたね」
「お前はのんきな時に生まれたよな」
 強い風がカタカタと雨戸を鳴らし、他に誰もいない静かなこの部屋で、そんな他愛もない話をしていたら、寒さがこの部屋を、小さなふたりだけの世界にしたみたいに感じた。
 市丸とふたりだけでいると、いつでもふたりだけの小さな世界が、切り取られたみたいに感じてしまうのだ。
「…寒くなったな」
 ぽつんと日番谷が言うと、明日は雪になるかもしれんのやって、と市丸が答えた。
「なあ、この部屋寒ない?おこた入れよう?おこた入れて、ふたりで入ろう?」
 テメエの部屋だってもっと寒いくせに、と思ったが、市丸とこたつに入るのも悪くない、と思って、日番谷は素直に、ああ、そうだな、と答えた。
「そしたら明日早速、買いに行こう。ボクからの誕生日プレゼントや」
「誕生日プレゼントかよ。…でも、いいな」
「ええやろ」
 これからどんどん寒くなってゆく毎日を、市丸とふたり、こたつに入って過ごすのも悪くない。
 誕生日、クリスマス、年の暮れ、そして正月。
 のんびり平和にふたりで過ごすそんな毎日が、とても、とても幸せに思えて、自分へのプレゼントは、やっぱり市丸自身かもしれないと、日番谷はぼんやりと思った。




お終い