.

愛して、温めて−10

 行為が終わっても、市丸は消えることもなく、日番谷を抱き締めて、満足そうにゆったりしていた。
「…なんでお前、まだいんの?」
 素朴な疑問で聞いてみたら、ひどく傷ついたみたいな顔をして、
「なんでて、消えへんよ!なんやのソレ!終わったらとっとと帰れいうこと!冬獅郎は、ボクのコレにだけ用があるいうこと!」
「いや、悪い、言葉が足りなかった。お前は、お前の意思で、人間になったり、消えたり、できんの?」
 本当は確かにちょっと、いつまでもべったりくっついていないで欲しいと思ったのだが、こいつはこたつだから仕方ないと、よくわからない納得をした。
「うん、まあ、エネルギーが十分ある時は、できるかな」
「コンセント抜いたら、また消えるのか?」
「抜く気なん」
 素朴な疑問だったのに、また鋭い目で睨まれた。
「終わったら抜いて、またたまってきたら、コンセント入れる気なん。ボクが電化製品や思うて、使い捨てる気ぃなん」
「ンなわけねえだろ!…どういうタイミングで、出たり消えたりすることがあるのか…知ってねえと、俺も、どうしていいのかわからないだろ…」
「消えへんよ。ボクは、ずっと、こうしてキミと一緒におる」
「マジか」
 その答えの裏には、嬉しいという気持ちと、ウザ、という気持ちが、同時に存在したかもしれない。
 それを敏感に察したのか、市丸はすうっと絡めていた腕を引いて、
「…ちょう汗かいたし、お風呂入ってこようかな」
「えっ、お前も風呂なんか入るのか?」
「この身体は人間と、基本なんにも変わらへんよ。食事はしなくても死なへんけども、切ったら血ィも出るし、キミの中に出したもんも、本物やで」
 言われて日番谷は、真っ赤になった。
 それを見て、市丸はフッと笑って、
「キミが先に入りたければ、先でもええし、一緒に入ってもええよ?洗ったろか?」
「誰が一緒になんか入るか!てか、もう一度沸かし直さねえと、入れねえよ」
「お湯、沸かしといたで」
「いつの間に!」
 日番谷の記憶のある限り、市丸は現れてからずっと、片時も日番谷から離れていない。
 第一、こたつに風呂の沸かし方なんかわかるのかと思ったが、
「キミんちのお風呂、全自動やん。全自動でお湯沸かす、電化製品やん」
「ガスだけど」
「スイッチは電気や。さっきお湯沸かしといてて、合図送っといたし」
「お前は、何者だ」
「?こたつやけど」
 なんだかよくわからないが、あなどれないような気がしてきた。
 人間社会は、電化製品で溢れているから。
 まるで電化製品の王様のように、その上に君臨して支配している様子を見ていると、こいつを怒らせたらごはんも炊けないし、テレビも見れなければ電気もつかないような気がしてきた。
(てゆうか、こいつこたつのくせに、なんでそんな偉いんだ??)
 なんだか頭が痛くなってきてその場に突っ伏すと、市丸はそっとこたつ布団を掛けなおして、すぐ戻ってくるよって、ちょうっと、待っててな?と言って部屋を出て行った。
 市丸がいなくなっても、こたつはぽかぽか適温で、温かい。
 市丸が向こうにいて、こたつがここにある場合、このこたつとあの市丸は、どうつながっているのだろうとふと思った。
 状況証拠がいくらあっても、いまだにこのこたつがあの市丸だとは、十分には納得できていないのだ。
 日番谷はちょっと考えて、こたつの中でもう一度大きく脚を開いて、こたつ布団に顔を埋めて、絶対に風呂場では聞こえないような声で、「市丸ぅ…」と切ない声を出してみた。
 とたんに風呂場の方から、何かを激しく引っくり返したり物があちこちに当たったり、水がざぶざぶとはね飛ぶような、すごい音が聞こえてきた。
「とっ、冬獅郎!」
 次の瞬間にはずぶ濡れの市丸が、すごい形相で和室に飛び込んできた。
 見たくもなかったが、素っ裸なので、そこが見事に臨戦体勢になっているのも、見てしまった。
(ヤ、ヤバい、やっぱりわかるんだ!)
 日番谷は慌てて脚を閉じ、完全に知らん顔をして、
「わっ、何してんだよテメエ!畳が濡れるだろ!拭いてこい!!」
「せっ、せやけど冬獅郎、今…!」
「はあー?何の話してんのか、全然わからねえ!とにかく戻れ!ちゃんと片付けて、床もテメエも、拭いてこい!」
「え〜〜〜〜っ、せやかて、」
「せやかてじゃねえ、戻れったら、戻れ!」
 一応は電化製品で、日番谷のことを主人と思っているような言動もしていたから、強く命令してやると、それなりに言うことはきくみたいだった。
 納得いかないような顔をしながらも、しぶしぶ風呂場に戻ってゆく。
 その間に日番谷はさっさと服を着て、こたつのスイッチだけを消して、自室に戻った。
 電気を消して布団に潜り込んでいると、しばらくして、市丸が来た。
「…なんでボクのおこたで寝てくれへんの?」
 暗い中、ぼんやり浮かぶそのシルエットはスラリとしていて、こうして見ると、けっこうかっこよく見えた。
「別にいいだろ。こっちにいても、こうして、お前も、こっちに来れるんだから」
 日番谷が答えると、拗ねたような口調がパッと明るくなり、
「そうやね!ボクが温めてあげるもんな!」
 ウキウキと布団に飛び込んできた市丸は、本当に、あのこたつみたいに、ぽかぽかと温かかった。


お終い♪