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ハレルヤ−13

「さて、毎年恒例の新年会の準備じゃが」
 年末最後の隊首会で、山本元柳斎重國が、重々しく言った。
「滞りなく進んでおるじゃろうの、皆の者」
 毎年新年会は上位席官達まで参加の小規模なものだったし、副隊長が主となって準備を進めるため、隊長は当日の挨拶をするくらいだった。
 各隊長とも問題なく頷いて、あとは簡単な伝達事項が伝えられ、今年一年の業務も終わりに近付いた。
 会が解散となると、すぐに浮竹がやって来た。
「日番谷隊長。今年の大晦日は、どうやって過ごすんだい?よかったら雛森副隊長と一緒に、十三番隊の年越しパーティーに来ないか?」
「あ、いや、俺…」
「十三番隊長さん、四番隊長さんが、呼んではったで?」
 やんわりとした声で、邪魔しに来たとも感じさせない自然さで、市丸がすうっと二人の間に入ってくる。
「卯の花隊長が?じゃ、日番谷くん、よかったら、いつでもおいで。市丸隊長も、良い年を!」
「ああ。浮竹も、良い年を」
「よいお年を」
 浮竹が去ってしまうと、市丸は日番谷と並んで歩きながら、
「全く、油断も隙もあらへんね。十番隊長さん、今日くらいは、早うお仕事終わるんやろ?ボク、迎えに行くよって、待っててな?」
「…ああ」
 浮竹の誘いを断って、市丸とふたりで過ごすことを選ぶ日がこようとは。
 こうして並んで歩くことも恥ずかしい気がして、日番谷は頬が熱くなるのを感じながら、思わず速足で歩いた。
 それに余裕でついて来ながら市丸は、
「ボクな、お部屋におこた入れたんよ」
「おこた?」
「こたつ。ふたりで入ったら、あったかいやろうなあ思うて」
 あのなんにもない部屋に、そんなものを入れたのか。
 日番谷をそれで、誘うために。
 日番谷にその部屋を、居心地がいいと思わせるために。
 そう思うと、嬉しいような、恥ずかしいような。
「…ふうん。そりゃ、いいな」
 できるだけサラょっぴり雪が降るみたいですよ。隊長、風邪ひかないように、気を付けて下さいね?」
「お前もな」
 言いながら日番谷も、一緒になって窓の外を見た。
(雪か…)
 今晩市丸とふたり、こたつに入りながら雪を見るのだろうか。
 氷雪系の斬魄刀を持つ日番谷はよく勘違いされやすいが、寒さを感じないわけでも、特別雪が好きなわけでもない。
 でも、市丸とふたりで年を越しながら、うっすらと舞う雪を見上げるのなら、悪くない。
 ここ一年、仕事仕事で、ゆっくり休む日などほとんどないままきてしまった。
 市丸のあの殺風景な部屋でこたつに入り、ふたりで蜜柑を食べて、最中を食べて、鐘の音を聞きながらそばをすすって、夜中にそっと戸を開けて、雪を見る。
 市丸は部屋着の上に半てんでもひっかけて、あの大きな身体で、背を丸めながら空を見上げるだろうか。
 あの指の長い手を高く上げて、キラキラと舞い落ちる雪を手の平に受けるのだろうか。
 あの晩のように、しんと冷えた空気にふたりの息が白く浮かび、ふわりと溶けてゆくのだろうか…。
 慌しかった年の終わりを、そんな何気なくも得難い時間で締めくくれる幸せを、日番谷は目を細めて噛み締めた。
 

 よいお年を!